【大学院特別講義】第4回

 大学院特別講義第4回(5/11)、タイポグラフィーとデザインの思考を開講テーマとして、中垣信夫デザイン事務所の代表でいらっしゃる中垣信夫さんに特別講義をしていただきました。

 中垣さんのお話は大きく分けると「コンピュータなどのテクノロジーの発達と人間の関係について」、「文字の歴史と展開」、「タイポグラフィーを考えるのに必要な考え」そしてこれまでの中垣さんご自身の活動を通して持ち続けてきた「マインド」でした。

 今回の講義を受けて最初に学んだのは、人間の幸福感は技術の発展に必ずしも比例しないということです。技術の発展によって人間の生活が便利になったのは間違い無いのだけれど、それらの多くは作業時間の短縮化、効率化であって、人間にとっての幸せには直接結びつかないというお話には自分の感覚と共鳴する部分がありました。また、コンピュータの進出によって人の本来持つクリエイティブな価値が抑えつけられているのではないかというお話も、時代と共に変遷する文字の書体を例に挙げて説明してくださったので、とても説得力がありました。さらに、中垣さんに見せていただいた、手書きによるルネッサンスの画家たちの人間関係図は迫力があってとても印象的でした。他にも人口の増加を示すインフォグラフィックスの下図、雑誌の表紙などの手書きの資料を見せていただき、手先を極めた人間の作品はここまで綺麗になるのかと非常に驚嘆しました。

 

 私は子どもの頃から字を褒められてきて、自分の手で書く字が好きでした。今もその感覚があって、書くことは全く嫌ではないのですが、それは中垣さんのおっしゃるところの手書きならではの身体性というものに深い魅力を感じるからだと再認識しました。

 また、普段何気なく使う書体ひとつにも、必ず歴史があり、その形をしている意味や時代背景があり、歴史を抑えることで、その書体がどのような経緯を持って生まれたのか知ることができ、適切な使い方ができる、とのことで、モノの生まれた起源や背景について考えることの重要性を感じました。また少し大げさかもしれませんが、なぜ文字が生まれたのかを知らなければ、ある意味目的もなく文字を使っているのと同義ではないでしょうか。それが文字だけでなく色々なものに当てはまっているとしたら、恐ろしいことだと思います。世の中が便利なものでありふれているからこそ、原点に立ち返って、何のために生まれてきたのかという目的を確認することが必要なのではないかと思いました。